人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Brunch as Institution: イスラエル人しか知らないニューヨーク

ブルックリンのある通りに住むイスラエル人男性。名前もない、知り合いの知り合いの知り合いが知っている、というだけの人。私はこの男性に会ったことは一度もないが、彼に対する感謝の気持ちでいっぱいだ。なぜならば毎週末、彼のおかげで、美味しいイエメン式ブランチが食べられるのだ。

今日はその謎の男性にまつわるお話。ブルックリン、そこにはイスラエル人しか知らないニューヨークがある。

Brunch as Institution: イスラエル人しか知らないニューヨーク_a0039943_6305034.jpg

ニューヨークの住人は「他の場所」から来た人が多い。外国人の私もその一人。西海岸のヘルシーすぎる生活に飽きてこっちに越してきたとか、ファッションを学ぶため田舎から頑張って出てきたとか、仕事に失敗してニューヨークにたどり着いたとか、ニューヨーカーはみんな自分のストーリーを持っている。

この街に住む外国人や移民は、それぞれのコミュニティが存在する。中華街はわかりやすい例だし、クイーンズのフラッシングに行くとある時点で急に韓国人しか見ない町になる。東ウィリアムズバーグのキープ通りは、土曜日の朝になると、正統派ユダヤ教徒の若い男の子からおじいさんまでが一斉に出現し、現れたかと思うと今度は忙しそうに早足でどこかに(しかも皆ばらばらの方向に)消えてゆく。また、ブルックリンのベイリッジにはパレスチナ人が多く住むエリアがあり、お店の看板は全部アラビア語で綴られている。たったの4ドルしかしないシーシャ(水パイプ)のカフェでは男の人たちが集まり、エジプト風アイスティーやアラビア・コーヒーを飲みながら一晩中煙の輪をプカプカ浮かせる。マンハッタンのホラス・カフェやカフェ・クレールで15ドルもするシーシャが馬鹿馬鹿しく思えるかもしれないが、エリアをよく知る友達なしだと、ベイリッジのアラブ系喫茶店に入っていくにはかなりの勇気がいる。こうして小さなポケットのように、あちらこちらに一味違うニューヨークが静かに存在している。

Brunch as Institution: イスラエル人しか知らないニューヨーク_a0039943_6255262.jpg

が、これはニューヨークに長年住んでいる人たちのこと。私が話していたイスラエル人男性は「通過中」のニューヨーカーとでも呼ぼう。今付き合っている彼氏は、ポーランド・イエメン系のイスラエル人なのだが(ひょんなことで出会い、90年代にシンガポールで同じ小学校に通っていたという奇跡的?な偶然)、彼を通じてイスラエル人コミュニティが発達していることに初めて気づいた。ユダヤ人はもちろん多いニューヨークだが、よくよく見れば、イスラエル人があらゆる場所、それも日常的な場面にいる。そういえば職場の近所で、クッキーが美味しいマキアート・エスプレッソ・バーのバリスタは、いつもヘブライ語でお喋りをしている。ウェストヴィルを経営しているのもイスラエル人(インサイダー情報で、今度はチェルシーに新しいお店ができるとか)。キャンパス近くの24時間カフェ、エスペラントもそう。ベッドフォード街のお気に入りのレストラン Peter's もそう。コルドン・ブルー卒のオムリ・マガル氏のレストランに並ぶ、赤いル・クルーゼのポットは、イスラエル風 "comfort foods" で一杯。何故今まで気づかなかったんだろう。

興味深いのは、ブルックリンとマンハッタン中に散らばっているイスラエルの若者たちは、先ほど説明したような、地理的なコミュニティがあるわけではない。それなのに、誰かが誰かを知っているので、ひとつの巨大な交友関係になっている。ある意味、流動的なコミュニティが構成されている。

Brunch as Institution: イスラエル人しか知らないニューヨーク_a0039943_627328.jpg

謎のイスラエル人男性に戻ろう。毎週土曜日に恋人のアパートに現れる男の人は、ジャハヌンのブランチプレートを二つ置いていく。ジャハヌンとは、イエメン料理のクラシックなブランチだそうで、小麦粉とバターを練って層にしてオーブンで焼き上げた、パイのような食べ物。すりおろした新鮮なトマトのスパイスがきいたソースと、オーブンで一緒に焼いた(?)茶色く色づいた卵と一緒に。ピリっとしたトマトソースを、ほんのり甘いジャハヌンの生地に塗りつけて食べる。「なにこれ!世界一おいしいブランチだよ!」と彼氏に言ったら、「イスラエルだったら毎日食べられるね」と笑っていた。イエメン系の家庭だと、ちゃんと生地から作るんですって。

最初に彼氏がジャハヌンを食べさせてくれたときは、美味しさに感激して、どこから急にこんな素晴らしいものが出てきたのかあまり深く考えなかった。でも不思議なことに毎週彼氏と一緒にアパートに戻ってくると、金曜の夜は食べ物がなくても朝になると必ず新鮮なジャハヌンがリビングのテーブルに乗ってたり、冷蔵庫の中にしまってあったりするのだ。

すっかりジャハヌンが気に入ってしまい、どこで買えるのか彼氏に聞いてみた。"We know a guy who knows a guy who’s friends with this guy in Brooklyn," と答えが返ってくる。その「ジャハヌンの人」と口座を開く(?)と、毎週、焼きたてのジャハヌンがトマトソースと卵とともに家に届くのだ。変な取引。そもそも誰が作ってるの?彼氏のアパートの場合、いつもルームメートのエイナンが早朝にジャハヌンを受け取るので、私は「ジャハヌンの人」の声を聞いたことしかない。それも夢うつつ状態で。

「ジャハヌンが好きなんだって?」とエイナンが不思議がっていた。「エイナンも作り方知らないの?」と聞いたら、"We don’t know how to make it." と言う。"We just know how to eat it."

でも広いニューヨークで、ジャハヌンが絶対に買えないなんて、本当だろうか。彼氏のお母さんからレシピを伝授してもらって、家で挑戦してみたいものだ。

昨日、夜遅く仕事からアパートに戻ってきた彼氏は、早速冷蔵庫をあけた。

「ジャハヌンが来てる」

暖めなおすのに電子レンジに入れた、卵が破裂する失敗が何回かあったらしく、彼らの電子レンジにはたまに茶色い卵の破片が残っていたりする。
by girlfrombackthen | 2009-03-02 06:35 | The Gourmand
←menuへ
XML | ATOM

Powered by Excite Blog

会社概要
プライバシーポリシー
利用規約
個人情報保護
情報取得について
免責事項
ヘルプ